アフリカセンターのあゆみ
京都大学におけるアフリカ研究の歴史
京都大学のアフリカ研究史の曙は 1958年に今西錦司名誉教授らを中心として開始された学術調査にさかのぼることができます。当初は、アフリカ大型類人猿の生態学・社会学的調査、狩猟採集民の生態人類学的調査に基づく人類社会の進化史の解明を目標として研究チームが組織されましたが、その後、研究分野は年とともに拡大していき、民族学、言語学、生態学、古人類学、地質学、医学、薬学、農学といった分野の調査も活発に行われるようになっていきました。 地域的にも、東アフリカのタンザニア、ケニア、南部アフリカのボツワナ、ザンビア、中部アフリカのザイール、コンゴ、ガボン、西部アフリカのカメルーン、ギニア、マリ、そしてエチオピア、スーダン、さらにマダガスカルへと広がり、1987年までの約30年間で、延べ500人以上の研究者が、主として霊長類(とくに大型類人猿)の生態学・社会学的研究や、狩猟採集民・牧畜民・焼畑農耕民の生態人類学的研究、化石人類の研究、淡水魚の生態学的研究、在来農業の研究等の分野において、多くの新しい発見を含む輝かしい業績をあげました。
京都大学アフリカ地域研究センター設立、そしてアフリカ地域研究資料センターへ
こうしたアフリカ研究の発展にともなって、1986年に現在のアフリカセンターの前身である、アフリカ地域研究センターが、わが国最初のアフリカ専門の研究機関として開設されました。初代のセンター長を伊谷純一郎名誉教授がつとめ、乾燥帯生態系研究部門、湿潤帯生態系研究部門、歴史・先史客員研究部門、および情報資料室が設置されました。
その後、生業構造研究部門、アフリカ学研究部門があいついで設置され、研究の拡充がはかられました。また、研究のみならず、理学研究科、農学研究科、人間・環境学研究科において、大学院教育をおこない、アフリカ地域研究者の育成にも力を注いできました。1995年度に設立10年を迎えたアフリカ地域研究センターは、発展的に解消され、1996年度からアフリカ地域研究資料センター(通称アフリカセンター)として新たに出発しました。それまで大学院教育を担ってきた部門は、1996年からの2年間は人間・環境学研究科のアフリカ地域研究専攻に移行しました。
アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)の設立とアフリカ地域研究資料センター
1998年にいよいよ大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)が新設されると、人間・環境学研究科に所属していたアフリカ地域研究専攻はASAFASにうつり、より充実した体制で研究・教育活動を実施できるようになりました。
アフリカ地域研究資料センターは、アフリカ地域研究センターから引き続いてさまざまな活動を実施しています。
(1)大型プロジェクトの推進
科学研究費補助金基盤研究(S)やJST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)、JICA草の根技術協力プロジェクトといった大型研究プロジェクトを運営し、国内外の研究者との連携を図り、研究活動と情報発信、国際貢献の推進に努めています。
(2)情報資料の収集・管理
アフリカ地域の自然、民族、文化に関する図書・学術報告書、動植物標本等を中心に広範に収集をおこない、学内外の研究者に公開してアフリカ研究の発展に貢献してきましたが、2021年時点での単行本の収集点数は約28,000点にのぼります。1987年に構築されたアフリカ有用植物データベース(AFlora)は随時、蓄積データの充実が図られています。また、アフリカ各国で刊行された地図も研究資料として保管・収蔵しています。
(3)国際学術雑誌の刊行
出版物としては、欧文の学術雑誌 “African Study Monographs”(ASM)を刊行してきました。このASMは、1981年にアフリカ地域研究センターの前身「アフリカ地域研究調査室」により第1号が発刊され、1985年度からは季刊として刊行されるようになりましたが、2021年現在で、通常号が通算140号(41巻2号まで)、特集号が60号に達しました。京都大学学術情報レポジトリ「KURENAI」やJ-stageによるオンラインによる論文のオープンアクセスも進めています。このASMには日本国内の研究者はもとより、アフリカ、欧米をはじめ世界中の研究者の論文が掲載されています。
(4)研究成果の発信
内外のアフリカ研究者を招いて行われている月例の「アフリカ地域研究会」は、2021年度までに255回を数えます。2017年に開始したKUASS(Kyoto University African Studies Seminar)の講演は英語で開催され、2021年時点で97回を数えます。そのほか、各プロジェクトの研究集会をはじめとする各種の研究集会、国際フォーラム/シンポジウムの主催・共催も随時おこない、積極的な研究活動を推進しています。
こうして積み重ねられてきたアフリカ研究の成果を社会に還元すべく、2007年度には社会貢献支援室がもうけられ、アウトリーチ活動にもより積極的に取り組むようになりました。2009年度の後期からは、「京の府民大学」事業と協賛して5回シリーズの公開講座を開催するほか、小中高等学校を訪問してアフリカの自然・社会・文化の紹介をおこなう活動を展開しています。
また、2009年3月には日本の教育研究機関に滞在したアフリカ諸国の研究者、留学生を結んで「日本‐アフリカ研究者ネットワーク(JASNET: Japan-Africa Scholars’ Network)」を結成しました。また、2017年には京都大学アフリカ同窓会を創設し、アフリカ出身、およびアフリカと関わる京都大学の卒業生を結びつけ、ネットワークづくりに努めています。アフリカセンターは、これまで数々のアフリカ人研究者を受け入れ、日本のアフリカ研究(者)と世界のアフリカ研究(者)とを結びつける役割を果たすと同時に、国際学術協定に基づく研究交流を積極的におこなってきましたが、今後は、国内外のアフリカ(人)研究者のネットワークづくりにも貢献していきます。
2020年より新型コロナ・ウィルス感染症(COVID-19)が世界各地に拡大し、アフリカ諸国でも深刻な問題となっています。感染症の問題のほかにも、異常気象の頻発や気候変動の問題、砂漠化の防止や熱帯雨林の保全、食料生産や飢餓、貧困の問題、経済格差の拡大、内戦やテロリズム、政治的不安定といった複雑な問題が多く存在します。アフリカ地域の自然や社会、文化に対する深い理解にもとづき、これらの諸問題を解決すべく調査・研究を推進しています。
年表・アフリカセンターのあゆみ
1986年 | アフリカ地域研究センター開設(初代センター長・伊谷純一郎教授)乾燥帯生態系研究部門(教授1,助教授1,助手1)・湿潤帯生態系研究部門(教授1,助教授1)・歴史・先史客員研究部門(教授1,助教授1)・情報資料室(助教授1)を設置 大学院教育(理学研究科・農学研究科にて生態人類学,人類社会進化論,霊長類社会学,熱帯アフリカ農業論,土壌学等に関する講義及び大学院生の研究指導) |
1987年 | アフリカ有用植物データベース(AFlora)を構築 |
1988年 | 生業構造研究部門(教授1,助教授1)を設置 |
1992年 | アフリカ学研究部門(外国人客員)を設置 |
1993年 | 人間・環境学研究科文化・地域環境論専攻にアフリカ地域研究講座を担当(民族文化論,社会生態論,生計経済論,自然環境論,生業構造論,生業環境論,及び生態人類学の7科目を開講) |
1995年 | アフリカ地域研究センターは発展的に解消 |
1996年 | アフリカ地域研究資料センターとして新たに出発 大学院教育部門は、大学院人間・環境学研究科のアフリカ地域研究専攻に移行。地域生態論,民族共生論,生業生態論の3講座(教授6,助教授6)を設置 |
1998年 | 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)の設立にともない、アフリカ地域研究専攻は、人間・環境学研究科よりASAFASアフリカ地域研究専攻へ移行 |
2007年 | 社会貢献支援室設置 |
2009年 | 「日本‐アフリカ研究者ネットワーク(JASNET: Japan-Africa Scholars’ Network)」結成 公開講座「アフリカ研究最前線」開始 |
2011年 | 科学研究費補助金基盤研究(S)「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究」の開始 JST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)「カメルーン森林―サバンナ持続性プロジェクト」の開始 |
2013年 | アフリカ地域研究会、第200回記念大会を開催 |
2014年 | アフリカ学会第51回学術大会、創立50周年記念講演会を開催 |
2015年 | JSPS頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム「グローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編のためのネットワーク形成」の開始 |
2016年 | 創立30周年を迎える 科学研究費補助金基盤研究(S)「「アフリカ潜在力」と現代世界の困難の克服:人類の未来を展望する総合的地域研究」の開始 アフリカ学際研究拠点推進ユニットを設立 第1回 京都大学アフリカ同窓会開催(ケニア) |
2017年 | 第2回 京都大学アフリカ同窓会開催(エチオピア) 日本=フランス地域研究フォーラムを開催 京都大学リエゾン・オフィスをエチオピア・アジスアベバに設置 |
2018年 | JST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)「在来知と生態学的手法の統合による革新的な森林資源マネジメントの共創」の開始 第3回 京都大学アフリカ同窓会開催(ガーナ) |
2019年 | 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「特殊土地盤上道路災害低減に向けた植物由来の土質改良材の開発と運用モデル」の開始 第4回 京都大学アフリカ同窓会開催(マダガスカル) |
2020年 | 第5回 京都大学アフリカ同窓会開催(オンライン) Kyoto University International Symposium “Innovation for Sustainable Development in Africa”の開催 |
2021年 | JICA草の根技術協力プロジェクト「JICA 草の根技術協力事業 草の根協力支援型「ニジェール・ニアメ首都圏におけるゴミ分別の環境教育と有機性ゴミによる緑化活動」 の開始 |
歴代センター長
1986〜1989年度 | 伊谷 純一郎 |
1990〜1995年度 | 田中 二郎 |
1996〜1997年度 | 髙村 泰雄 |
1998〜1999年度 | 田中 二郎 |
2000〜2001年度 | 掛谷 誠 |
2002〜2003年度 | 市川 光雄 |
2004〜2007年度 | 荒木 茂 |
2008~2009年度 | 太田 至 |
2010~2011年度 | 重田 眞義 |
2012~2013年度 | 木村 大治 |
2014~2015年度 | 梶 茂樹 |
2016~2019年度 | 重田 眞義 |
2020~2023年度 | 高橋 基樹 |